今回オール・スクリャビン・リサイタル第一弾を企画するにあたって、先ずは1890年代の初期作品、10代から20代の時に作曲した練習曲、前奏曲、ソナタ(幻想曲)という3ジャンルの作品を演奏しようと考えました。12の練習曲作品8は、作曲家としてのスクリャビンを、…
この作品を完成させたとき、スクリャビンがまだ23歳であったことをどのように想像すればいいのだろうか。たとえばロマン派の天才作曲家、つまりショパンとシューマンの才能が花開いたのも確かに22歳から23歳にかけてのことであった。しかしながら、想像を絶するロマン派の時間軸を現代の時間の流れに比較することはできない。1872年に生まれたスクリャビンの時代には、まだその天才の時間軸の上で自己を形成することが可能だったのだということがここには如実に示されている。恐るべき、そして美しい作品である。
先の練習曲集 op.8に続いて完成された前奏曲集。希少な調性を積極的に使用したop.8に比べて、ショパンの前奏曲集と同じく五度圏の平行調の上を進行する古典的な佇まいを見せているが、冒頭の数小節を聴くだけで、スクリャビンの精神が時代をさらに飛び越えていく浮遊力に出会うことになる。ここでスクリャビンが示しているモダニズムは、抒情に関わる全ての感情に対して決定的な影響を与えたものである。聴く者は両手を膝の上にのせる前に、その翼にのる心の準備をしておいたほうが良いのかもしれない。
op.8とop.11よりも前に構想されながら、完成は先の前奏曲 op.11の翌年のことであった。ピアノソナタというさらに古典的な様式をめぐって、12分にも満たないこの作品の中にスクリャビンが注ぎ込んだ時間をどのように感じ取ることが出来るだろうか。天才は、理解を急ごうとはしない。誰にとっても充分すぎる時間がここにあることを確信しているしぐさで、時計の針の重力を解放する手続きをゆっくりとすすめてゆくのである。
2024年
5月5日(日) ― 19:30開演
5月6日(月・祝) ― 19:30開演
入場料金(両日とも同プログラム)
各日 4000円