ドヴォルザークは自分でそのように意識していたのかどうか、大作曲家として大成するとしか思えない道を歩んだ。
父はツィターの名手であり、叔父はトランペットの名手だったという、かの大バッハの出生を髣髴とさせる環境にドヴォルザークは生まれた。
そして、初めて手にした楽器がヴァイオリンであり、そのあとヴィオラも弾いたという事も、かの大バッハを髣髴とさせる、
リーマンという教会音楽の作曲もし、教会のオルガンも弾く教師からドイツ語を学ぶうちに、オルガンの奏法のみならず、和声学も学ぶことでカントルの伝統をなぞったことも、かの大バッハを髣髴とさせる。
若いうちに当時の大作曲家スメタナの薫陶を受けたという事も、ブクステフーデから薫陶を受けた大バッハに通じるものがある。
金属細工商であったというチェルマークという家で二人の娘の家庭教師をする中で、まず女優であった姉の方に恋心を抱き、失恋し、しばらくのちに出会った妹の方と結婚をしたというのは、ほぼモーツァルトとウェーバー家との関係そのものではないか。
そして、結婚したアンナの家がオルガニストの家系であったことから、ドヴォルザークがオルガニストとしての職を得たことは、アンナ・バルバラと結婚したおかげでミュールハウゼンのオルガニストに就任した、かの大バッハを髣髴とさせる。
ドヴォルザークは結婚から最初に生まれた3人の子供を早くに失った。しかし、その後6人の子供に恵まれて、すべて成人した。大バッハの子供は20人と言われているが、やっぱりその顔が思い浮かんで来るのは仕方がない。
どう考えても大作曲家になるしか人生だったであったドヴォルザークの創作活動がいわゆるベートーヴェンの「傑作の森」の様相を見せ始めたと言われている、その最初の作品が弦楽四重奏曲 第8番である。
ここから第14番まで続く7つの弦楽四重奏曲は、ベートーヴェンがラズモフスキー・カルテットから後期に向かう道程でしかおよそ比べるもののない、恐るべき大作曲家の道を指し示している。
まずは第8番から、大作曲家の神髄に挑む全7回のシリーズ「新たなる出発」がいよいよ開幕する。
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2022年5月27日(金) 20:00開演
「新たなる出発」 – VOL.1
ヴァイオリン:杉江洋子
ヴァイオリン:野田明斗子
ヴィオラ:小峰航一
チェロ:ドナルド・リッチャー