交響的時間

ブラームスのチェロソナタ 第2番 op.99を聴く公演に、この作品が交響的だからという理由で「シンフォニック・タイム」というタイトルを付けた。

このチェロソナタの冒頭には、直前に書かれたブラームスの交響曲 第4番の冒頭がまったく違う形であらわれている。

Brahms : Symphony No.4 & Cello Sonata No.2

旋律が逆転しているだけあって、この二つの雰囲気はまったく異なる。
ゆったりと雲のたなびく空を見るような交響曲 第4番に比べて、チェロソナタはいきなり地震警報が鳴り響くような強い切迫感を突き付けてくる。この点ではむしろ交響曲 第3番 op.90冒頭の太鼓連打を思い出す人の方が多いかもしれない。
ちなみに交響曲第4番から遠く遡れば、この切り詰めた主題はベートーヴェンがピアノソナタで使用したものにつながることになる。

Beethoven : Piano Sonata No.30 op.109

以上3つのいずれもが作品のいきなり最初に登場するものであるから、たとえブラームスがそうとは意識していなかったとしても、音楽を聴く立場からすれば同じルーツを感じざるを得ない。
いま誰かが作った演劇が「誰だ?」「名をなのれ!」から始まれば、観る人は即座にハムレットを思い出すといった具合のことと同じかもしれない。

他にこのチェロソナタについて言われていることといえば、第4楽章の旋律がドイツの学生歌『我々は堂々とした家を建てた』の引用であるらしいということだ。この学生歌はもっと直接的にブラームスの大学祝典序曲 op.80に引用されている。「堂々とした家」というのはこのチェロソナタの前に書かれた交響曲のことを言っているのだろうか。ブラームスのことだからほかにも理由がありそうだ。
また、明確にバッハの引用があったチェロソナタ 第1番と比べて、この作品ではチェロパートがウロウロする箇所が、なんとなく無伴奏チェロ組曲のように思えてこないでもない。
バッハのチェロ組曲といっても6つあるのだが、ここでは調性の関連性から第2番 ニ短調を観察してみよう。

ブラームスはヘ長調、バッハはニ短調(どちらも♭ひとつ)

なんだか無理やりな気がしなくもないけれど、ブラームスはバッハの無伴奏チェロ組曲につけられたシューマンのピアノパートも全て見ていた人だということを考えると、やはり聴く立場として親しみを覚えるためにもここにバッハを感じておきたいところなのである。

バッハの無伴奏チェロ組曲といえば、マグダレーナ・バッハの写譜と同時期か少し前にバッハの知り合いのケルナーという人が残した写譜のことが気になっている。いろいろ調べてみているけれど、まだ整理が出来ていない。
どこかにまとめられた情報がないだろうか…?

話がそれてしまった。
ブラームスのチェロソナタ 第2番については、もっともっといろいろな考察が可能なのだろう。自分にはここまでが今のところの精いっぱいである。

交響的時間、どうかお楽しみあれ。


 
 
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2023年6月15日(木) 20:00開演
「シンフォニック・タイム」
チェロ:増田喜嘉
ピアノ:鈴木隆太郎

https://www.cafe-montage.com/prg/230615.html