ベートーヴェンの音楽の一つの重要な要素。それはバロック音楽と古典音楽の融合である。ニーチェがベートーヴェンに見出したギリシャ精神は、ベートーヴェンがバロック音楽、つまり古代ギリシャを表現する術を心得ていた時代の音楽に見出したものと重ねて見ることができる。
ベートーヴェンは1800年に「プロメテウスの創造物」という彼としては唯一のバレエ音楽を作曲した。モーツァルトの「イドメネオ」のバレエ音楽と比較されるこの作品においてベートーヴェンは、Pastoralという楽章を設けている。パストラールは3拍子の舞曲。
バロック音楽にはいろいろと有名なパストラール舞曲がある。
・ヴィヴァルディの「春」の最終楽章
・コレッリのクリスマス協奏曲の最終楽章
・ラモーのコンセール第4番の「パントマイム」・・・などなど
モーツァルトが「イドメネオ」においてシャコンヌ – パスピエ – ガヴォット – パッサカリアという 盛大なバロック詣でをしているのに比べると、ベートーヴェンのそれは幾分控えめかもしれないけれど、La Tempestaという導入部で露骨なヴィヴァルディ祭りを展開してもいる。
ところで、このプロメテウスと同時期に作曲されたベートーヴェンのピアノソナタ第15番が「田園 – Pastoral」と題されている。それは出版社が勝手にそう書いたことで広まったのだけれど、出版社もなんとなくの雰囲気でつけたのではない。第4楽章に明らかなパストラールの舞曲があるのだ。
そして、第1楽章もオルガンバスが3拍子を刻む、パストラール舞曲だが、この楽章と先にあげたラモーのパントマイムの類似が興味深い。何か別の編成のために書いた音楽かとも想像できるけれども、ベートーヴェンの愛弟子のリースがこの作品を弦楽四重奏に編曲している。
ついでに、このベートーヴェンの愛弟子フェルディナント・リースは、田園ソナタと同じニ長調で「田園」ピアノ協奏曲というのを書いている。そして、ベートーヴェン本人には有名な田園交響曲があるけれど、その最終楽章もやはりパストラール舞曲となっている。
ともあれ、田園ソナタのオルガンバスをそのままティンパニに置き換えると、それも同じくニ長調で書かれたヴァイオリン協奏曲 作品61につながるし、その第3楽章はやはりバロック音楽へのオマージュになっている。
そして、田園ソナタと同じ年に、田園交響曲と同じ調で書かれ「春」という愛称で親しまれているヴァイオリンソナタ 第5番も、ベートーヴェンの田園コレクションの一つなのである。
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2016年 5月21日(土) 20:00開演
「ベートーヴェン」- ピアノソナタ
ピアノ: 塩見亮
http://www.cafe-montage.com/prg/160521.html