「夢と記憶の境界」ファーニホウ作品集
2025年2月19日(水) 19:00開演
【プログラム】
B.ファーニホウ:フルートソロのための作品集
・スーパー・スクリプティオ - Piccolo
・ユニティ・カプセル - Flute
・想像の牢獄 2c - Flute and Tape
・カサンドラの夢の歌 - Flute
・シーシュポスの帰還 - Alto Flute
・ムネモシュネ - 記憶の女神 - Bass Flute and Tape
2025年2月19日(水) 19:00開演
現代音楽界の巨匠ブライアン・ファーニホウが成し遂げた最大の業績は、記譜法の革命と言えるであろう。
彼の酷く難解な楽譜を目の当たりにした人は、大抵口を揃えて、こんなもの正確に演奏できるものか(出来ないではないか!)と、時には怒りを持って疑問を投げかける。
そのような疑問が出るのは、私たちが「楽譜」という概念に囚われているからにすぎない。
この複雑怪奇極まりない楽譜は、従来の「書かれた通りの音が出る」メディアとしての楽譜の概念を解き放ち、特に楽器、演奏者、楽譜の関係性に焦点を当てたものなのである。彼の楽譜をどうやって解読するかによって、演奏家の個性が存分に引き出され、「素材そのものがゴムのように伸び縮みすることもある」のだという。まるで宇宙の中のような話だ。
古えの頃より、西洋人は哲学、天文学、音楽などによって宇宙を捉え、表現しようとしてきた歴史がある。ファーニホウはまさにその哲学を楽譜で体現してしまったのだ。
特にフルートという楽器は、彼の音楽的アイデアに最大の可能性を与えたようだ。 1970年から2011年の間に書かれた異なるフルートのための作品は全部で6曲あり、それぞれの作品には異なるアプローチが要求される。
『カサンドラの夢の歌』では古代の神話が不確定性のゆらぎの中に投射され、『スーパー・スクリプティオ』はピッコロの性質に対抗する数学的な複雑性との戦いに身を投じる。
『シーシュポスの帰還』を通してアルベール・カミュの「不条理哲学」と対峙して不条理と自己の共存を問うたかと思えば、『想像の牢獄』シリーズは演奏者と聴衆の双方に、これ以上は耐え難いと思われるような高音域と大音量を突きつける。
『ユニティ・カプセル』は、ひたすら続く超越技巧の難題ゆえに奏者は自身の技術が破綻する臨界点へと連れていかれ、『ムネモシュネ』は記譜された音楽における情報の限界を押し広げていく。
現代の巨匠が、生涯に渡って書き続けたフルートとフルーティストへの挑戦状に、私はどうやって答えられるのか。
今回はダイナミック・ノーテーションを使用して、まずは楽譜を図形として認識し、そこに書かれた音符や記号を点や線としてさらに演算し直して演奏するという道を選んだ。そのことによって、時間軸を制御するクリック音を聴くためのヘッドホンから解放されて、より自由に、過去の自分の録音、つまり自分の影と共に呼吸しながら演奏することが可能になった。その結果、果たしてどのような音響が繰り広げられるのか。あと一か月、京都の地下空間との化学反応を楽しみにしながら、準備を進めている。
― 松崎ゆり 2025.1.19
【今回使用するソフトウェア】
PolytempoNetwork, PolytempoComposer