石上さんと江崎さんから「今回のテーマは『狂喜と狂気』です!」とうかがってから、「狂」という文字についてとりとめのない考えを巡らせていました。
演奏者と客席の間に「ある作品」がある。「狂」が出現するとすれば、その主体はどこにあるのか。その作品の要素であることもあれば、演奏者の表現に含まれているものでもあったり、音楽を聴いている人の心に一瞬でも宿る何かであるかもしれない。
「狂」はExtreme、つまりある状態から見て過剰なものやその状態からの逸脱、その狭間に位置するものであるとまず仮定してみます。いま平穏な場所にいる自分が、重力や価値観のまったく違う場所に移動しなければいけないとすれば、その時に必要なものを「狂」といっても良いのかも知れない…。
まず前半には2つのイ長調のソナタが並んでいます。
ベートーヴェンは10曲あるヴァイオリンソナタのうち3曲をイ長調で書きましたが(第2番、第6番、第9番「クロイツェル」)、今回とり上げるのはその最初に成立した第2番のソナタです。序曲が終わり幕が開けるような冒頭の主題から、歌劇の三景を仰ぎ見るような華麗な作品です。そして、そのおよそ10年前に同じイ長調で書かれ、フィガロの結婚から魔笛の神秘劇に至る道程をひたすらに歩くような後期モーツァルトの傑作。のちにベートーヴェン、フォーレ、ブラームス、フランクへと連なる偉大なイ長調ソナタの系譜の源流となったK.526のソナタを演奏していただきます。
そして後半は清水昭夫による狂詩曲という、今回唯一「狂」の文字がタイトルに含まれる2014年の作品。そしてプロコフィエフのいわゆる「戦争ソナタ」三部作の創作時期をまたいで作曲された壮大な第1番ソナタをお聴きいただきます。
どこで何が極限状態に達するのか、まったく予測の出来ない特別な一夜。配信無し、会場限定での開催となります。皆様、是非ご参加ください!
終演後にはスペシャル・レセプションを開催します。ご来場者様のご参加無料です。ドリンク片手にゆっくりと終演後のひとときをお過ごしください。
― カフェ・モンタージュ 高田伸也