3人がベルリンで出会い、現代音楽の話で意気投合してGEN-ON Channelは始まりました。
様々な時代の音楽に触れ合うとき、これまでになかった発見をしたり、新しい課題に挑戦したりしたものを、オーディエンスや共演者を巻き込んでそれらをシェアし、新しい「何か」を作ってゆきたい。その過程で私たちは、これまでに自分になかった「チャンネル」を増やしてゆく??
GEN-ON Channelには、そのような由来があります。
今回は、コアメンバー3人が集まってのレクチャー公演です。
3人のメンバーの中でも私、菅沼は18世紀以前の古楽、溝渕さんと松崎さんは戦後前衛音楽と専門が違うのですが、いずれの分野でも「楽譜を読む」ということにおいて、一筋縄ではいかないという共通点があります。
一般的な楽譜、つまり五線譜のことなのですが、そこにはまず音符が書かれていて、音の高さと音の長さが示されています。そして、それを演奏者がどのように解釈・演奏するべきか、という指示が書かれています。テンポが遅いか速いか。音が強いか弱いか。どの音と繋がっていて、どこで切れるのか。などなど……一見明白に理路整然と書かれているようにみえる楽譜でも、そこに書かれていることを読み取って説得力のある演奏に仕上げるということは、実はかなり大変な作業です。
そのただでさえ大変な作業が、古楽や前衛の世界では、ときに極端すぎるほどに複雑になる場合があります。
およそ人間が一時に認識できる情報量を、遥かに越えた指示や記号が書かれている楽譜が存在するのです。
そのような極端に複雑な作品を書いた作曲家といえば、戦後前衛の中でもブライアン・ファーニホウという人がいます。彼は「新しい複雑性」と呼ばれる音楽潮流の旗手と位置付けられます。(フルートの松崎さんによれば、実のところ事はそう単純ではないようですが…)― かたや古楽はといえば、14世紀末から15世紀初頭、つまり中世末期に登場した複雑極まる手法による「アルス・スブティリオル」と呼ばれる音楽様式があります。
西洋音楽史上もっとも複雑怪奇なリズムを持つとされる音楽が書かれた2つの時代。
人の知覚能力を超えた微小で精緻な音楽的時間とその記譜を考察して「複雑性」の美学に迫るとともに、「楽譜を読む」ということの根本的な問題について、皆様と一緒に考えたいと思います。
ファーニホウを専門に研究しているフルートの松崎さんによるファーニホウ『想像の牢獄』、そして「モデナ写本」の解説と実演にも是非ご期待ください。
皆様とお会い出来ますことを、とても楽しみにしております!
― 菅沼起一 (げんおんチャンネル)