イングリッド・バーグマン主演の映画『さよならをもう一度』
もしくはその原作であるフランソワーズ・サガン著『ブラームスはお好き』をご存知でしょうか。
いまを生きながら、いまの自分を直視すること。
理想の夫を捨てて、ひとりで生きることを選んだ女性
その美しさに魅了されるあまり、エリートの道を捨てようとする若い男
恋愛の描写を通して、届かぬものへの憧れと諦念がそこに浮き上がります。
― 果たして音楽はいまを生きているか。
昨年にシェーンベルク作曲「月に憑かれたピエロ」の上演で好評を博した、京都市立芸術大学のclubMoCo-クラブ・モコがカフェ・モンタージュに戻ってきます。
彼らが今回取り組むのはフランス近代の大家ジョルジュ・オーリックの作品。
クラシック音楽ファンの間ではプーランクやミヨーらが参加した「六人組」のメンバーとして知られているオーリックですが、実は『ローマの休日』や『ムーラン・ルージュ』など、映画音楽の方面でも大活躍をした作曲家でもありました。冒頭にあげた映画『さよならをもう一度』の音楽もオーリックの手によるもので、自作に加えてパリの風景にブラームスの交響曲を印象的にあしらった手腕が高く評価されました。
話は変わりますが、悲惨な第二次大戦の後、新たな音楽の可能性を模索していたブーレーズやケージら若い世代の姿は、かつて第一次大戦後に同じ立場にあった「六人組」の目にどのように映っていたのでしょうか。
全て数値化された要素から音楽を導き出す総音列主義、そして人の判断力への懐疑から生まれた偶然性の音楽。等々。同じ「六人組」のプーランクはブーレーズの主催する現代音楽のコンサートに通い親交があったにも関わらず、自分はそのような音楽は書くことが出来ないと言ったそうです。その一方でオーリックは若い世代によるいわゆる「現代音楽」と呼応する斬新な響きを多く含みながら、なおかつ「六人組」の洒脱な精神が息づいているフルートとピアノのための作品"Imaginées"を書いたのでした。
イマジネ:Imaginéesとは、フランス語で「想像された」という意味。「心象の産物」とも訳されています。その後、Imaginéesをシリーズ作品とする構想が生まれ、チェロ、クラリネット、声、ピアノのための作品が書かれました。「六人組」の作風の広大さを物語るだけでなく、遠い過去と見えない未来の狭間でいまを模索する今日の耳にも痛切に響く作品集を、腕利きが集まるClubMocoメンバーによる演奏にてお聴きいただきます。
10代の前半にしてフォーレとラヴェルが率いる独立音楽協会にデビューし、早熟の天才としてストラヴィンスキーやディアギレフに認められてから、生涯を通して音楽のあらゆる手法・可能性を追い続けたオーリック。第二次大戦後にパリオペラ座の監督となり、ベルクの歌劇『ヴォツェック』のパリ初演(1961)を主導して当時戦後最大とされる成功をもたらし「我々はパリの目を覚ます、これはその始まりだ。このまま突き進もう!」と叫んだといいます。
オーリックの5曲のImaginéesと若きブーレーズ、そして映画の世界を一つの舞台に呼び込む、ClubMocoの新しい舞台がはじまります。皆様、ぜひお集まりください!
― カフェ・モンタージュ 高田伸也